良質な質的調査『呼び覚まされる 霊性の震災学』

 

 

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「これはすごく貴重な記録のような気がする。 源泉かけ流しとでも言うべきか、限りなく発生地点での「原型」に近い状態での幽霊譚の採取記録。」
にオッとなって参照先の記事を読んでみたけど、すごい面白い質的調査についての記事だった。
とにかく元記事を読んでいただきたいのだが、個人的に興味深かった点は
研究者曰く、幽霊の目撃談が非アカデミアから非科学的だといった批判を受けることなく共感を持って迎えられた、といった点とか。これなんかは「お堅くない」人文社会系の受容のされ方が社会的に共有された「記憶」やら出来事やらとわりとダイレクトなことの証左だなという感じ。東日本大震災というイベントがなければ「怪談」で処理される類の話が別種のものとして受け入れられている。
また一連の調査の中で、気仙沼は例外的に「幽霊が出ない街」だったそうだが、これについての分析としては、もともと遠洋漁業を産業として抱えてきた地域のため海難事故による死者・行方不明者が多く、「死」を受け入れる文化的土壌があったのではという分析が、東北地方の「イタコ」「口寄せ」文化などによる霊的なものへの親和性が幽霊目撃談を生む背景ではといった俗説否定になっていたりときっちり新規性をうんでいたり。
それにこれらの調査自体が、当然ながら質的調査の侵襲性を伴っていながら、同時に対象者の「喪」に様々な形で資することもあったということが書かれており、いい調査をおやりになったんだなあという感想。
あと調査対象者に「タクシー運転手」をいれるの上手いなあと感じた。
『「研究者は過去のデータや論文にあてはめて考え、幽霊のような話は不純物として扱うが、学生は被災地を歩き純粋に現場のデータを集めてくる。あてはめようとするほど合わないものが出てくる」と金菱さんは見る。』
 

news.yahoo.co.jp

東北学院大学 震災の記録プロジェクト/金菱 清(ゼミナール) 編、2016、
『呼び覚まされる 霊性の震災学』